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東京地方裁判所 平成5年(ワ)604号 判決 1994年10月18日

原告

日産火災海上保険株式会社

被告

エコー物流株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金二九八万一四九六円及びこれに対する平成五年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告は、原告に対し、金四九六万九一六一円及びこれに対する平成五年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行の宣言

第二事案の概要

一  本件は、東北自動車道において普通乗用自動車と被告の業務として運行していた普通貨物自動車との間に接触事故があり、普通乗用自動車の車両保険及び対物保険の保険者であつた原告が同車両の損害等についての保険金を支払つたことから、被告に対して代位請求を行つた事案である。

二  争いのない事実等

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成四年八月二八日午前七時三〇分ころ

事故の場所 栃木県黒磯市中内九〇番地先東北自動車道上り線路上

関係車両 被告が所有し、矢貫直博(以下「矢貫」という。)が運転する普通貨物自動車(多摩一一い五〇二二。以下「被告車両」という。)と、株式会社デイー・ブレーン(以下「訴外会社」という。)が所有し、岩田拓(以下「岩田」という。)が運転する普通乗用自動車(アルフアロメオ。品川三四ち二五一七。以下「岩田車両」という。)

事故の態様 前示事故現場において、走行車線から追越車線に進路変更した被告車両と追越車線を前進してきた岩田車両が接触したが、その事故態様については当事者間に争いがある。

事故の結果 岩田車両は損傷し、また、岩田車両が中央分離帯のガードロープに接触して、ガードロープも損傷した。

2  業務遂行中の事故

矢貫は被告の従業員であり、被告の業務として彼告車両を運転していた。

3  保険関係

(一) 原告は保険業を営む株式会社であり、岩田車両につき訴外会社との間で平成四年八月二五日、同車両の損害及びこれによる対物損害賠償責任について付保する自動車保険契約を締結した(甲三、八、九)。

(二) 原告は、右保険契約に基づき、同年九月二八日に訴外会社に対して本件事故により発生した岩田車両の損害金四八〇万円を、同年一二月一八日に日本道路公団にガードロープの修理代金相当額一六万九一六一円をそれぞれ支払つた(甲二、四、六の1ないし4)。

三  本件の争点

1  本件事故の態様

(一) 原告

岩田が時速一四〇ないし一五〇キロメートルの速度で追越車線を走行中、左前方の走行車線を走行していた被告車両が岩田車両の二〇ないし三〇メートルの地点で突如追越車線に車線変更した。岩田は、衝突を避けるため、ブレーキ操作をするとともに、ハンドルを右に切つたが、岩田車両は被告車両の後部に接触し、さらに中央分離帯のガードロープと樹木に接触した。

(二) 被告

矢貫が時速約一〇〇キロメートルの速度で走行車線を走行していたところ、前方に時速約八〇キロメートルで走行する車両(白いバン)があつたことから、バツクミラー及び右サイドミラーで岩田車両との距離が充分にあるのを確認した上で追越車線に車線変更し、白いバンと並進した。ところが、岩田が時速二〇〇キロメートル程度の速度で走行して、前照灯を点灯させ追越合図をしたため、矢貫は、追突の危険を回避するため、被告車両を走行区分帯をまたぐ形で左側へ移動したところ、岩田車両は、ほぼそれと同時に被告車両と中央分離帯の間を通過し、そのままガードロープに接触したもので、本件事故は、無理な追越しをした岩田の自損事故である。

2  損害額

(一) 原告

岩田車両の損害額は四八〇万円であり、ガードロープの修理相当代金一六万九一六一円と本件訴訟のための弁護士費用九九万円を合わせると損害の合計は五九五万九一六一円となる。本訴においてはその一部を請求する。

(二) 被告

岩田車両の損害は、同車両の時価額である四三〇万円に限られる。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様

1  前示争いのない事実に甲五、七、乙一、証人矢貫(一部)、同岩田を総合すると、本件事故のあつた平成四年八月二八日午前七時三〇分ころ、前示東北自動車道上り線路上において、矢貫は、被告車両を運転し、時速約一〇〇キロメートルの速度で走行車線を走行していたところ、前方に時速約八〇キロメートルで走行する車両(白いバン)があつたことから、追越車線に車線変更しようとしてウインカーを表示したこと、他方、岩田は、岩田車両を時速約一五〇キロメートルの速度で運転して、追越車線を走行していたところ、追越車線に進路変更してきた被告車両を発見したこと、岩田車両のパツシング機能が本件事故当時壊れていたため、岩田は、衝突を避けるため、クラクシヨンを鳴らすとともに、ブレーキ操作をし、さらにハンドルを右に切つたが、岩田車両のドアミラーは被告車両の荷台後部のあおりに接触して損壊し、さらに岩田車両の右側面等も中央分離帯のガードロープと樹木と接触し、タイヤがバーストする等の損壊を受けたこと、矢貫は、岩田車両のブレーキの音を聞き、また、岩田車両が中央分離帯に接触するのを認めながら、岩田車両からのクラクシヨンやハザードランプの表示にもかかわらず、そのまま走行していつたことが認められる。右認定に反する証人矢貫の証言は、後記検討に照らし、採用しない。

2  岩田は、証人尋問において「追越車線を走行していたところ、左前方約二〇~三〇メートルの走行車線を走つていた被告車両が追越車線に進路変更するのを認め、クラクシヨンを鳴らしたが、進路変更を続けたためブレーキ操作をした。しかし、衝突を回避することが不可能であつたので、ハンドルを右に切つて被告車両と中央分離帯の間を走行した。」と供述し、同人の本件事故直後の実況見分における警察官に対する説明もこれに沿う(乙一)。

他方、矢貫は、証人尋問において「走行車線を走行していたところ、前方に時速約八〇キロメートルで走行する白いバンを認め、これを追い越すため追越車線に車線変更しようとした。車線変更に際しては、バツクミラーで後方の確認をしたが、後方に自動車が見えなかつたことから、ウインカーを出した。それから三秒ほどして追越車線へ半分位入つた時に二回目の後方確認をしたところ、岩田車両を認めたが相当距離が離れていたように見受けられた。それから数十秒経ち被告車両と白いバンが完全併走する状態となる前の時点で、被告車両の後方一〇メートル程度離れ、中央分離帯寄りにある岩田車両がパツシングのサインをしているのを認めた。パツシングされて、白いバンが左に寄り、被告車両も走行車線側に寄つたところ、岩田車両が中央分離帯を走行して一度被告車両を追い抜いた。その時は、接触音も衝撃もなかつたから、事故現場から立ち去つた。」と供述する。

3  よつて検討すると、矢貫が供述するように、被告車両が追越車線に進入してから数十秒経つてから本件事故が発生したとするならば、岩田は、本件事故現場の相当手前(被告車両と岩田車両の速度差が時速五〇キロメートルであるから、一〇秒の間隔に過ぎないとしても約一四〇メートル手前)で被告車両が追越車線に進入したのを認めているはずであり、岩田が自殺を意図しない限り本件事故が発生しないから、右矢貫の供述は、採用の限りではない。また、矢貫は、岩田車両からパツシングされて、白いバンが左に寄り、被告車両も走行車線側に寄つたと供述するが、前認定のとおり、岩田車両のパツシング機能は事故当時壊れていたのであり、また、被告車両の後方一〇メートル程度の中央分離帯寄りの位置にある岩田車両がパツシングのサインをすることにより、走行車線の白いバンが路肩に寄ることも常識的ではない。さらに、甲七によれば、矢貫は、原告の事故調査担当者に岩田車両がクラクシヨンを鳴らしながら中央分離帯寄りを走行したので走行車線寄りに回避したと陳述しているのであつて、右供述も採用することができない。

このように、矢貫の供述は、全体的に採用し難いものがある。さらに、矢貫は、本件事故後、岩田車両からのクラクシヨンやハザードランプの表示にもかかわらず、事故現場を立ち去つていること、矢貫が追越車線に進入する直前において追越車線の交通事情を確認していないこと、及び前認定の事故の態様からすると、岩田の供述どおり、被告車両は、その後方約二〇~三〇メートルの追越車線に岩田車両があるにもかかわらず、これを視認することなく追越車線に進路変更したことにより生じたものと認めるのが相当である。

4  他方、前認定の事実によれば、岩田は、制限速度を時速約五〇キロメートルも上回る速度で追越車線を継続して走行したのであり、また、被告車両が車線変更をする合図したにもかかわらず、その時点で減速しなかつたのであつて、岩田の走行方法も本件事故発生の原因となつていることは明らかである。

そして、矢貫の過失と岩田の過失の双方を対比して勘案すると、被告は明示で主張はしていないが、本件事故で訴外会社の被つた損害については、その四割を過失相殺によつて減ずるのが相当である。

二  訴外会社の損害額について

甲五によれば、岩田車両の修理代金は消費税抜きで四八八万五二一〇円と見積もられたことが認められるが、他方、乙二によれば、本件事故当時の価格は四三〇万円と評価されるから、結局、岩田車両は本件事故により経済的には全損したものと認められ、同車両の損壊による損害額は四三〇万円と認める。

そして、前認定のとおり、原告は訴外会社のため日本道路公団にガードロープの修理代金相当額一六万九一六一円を支払つたから、訴外会社の損害の合計は、四四六万九一六一円となり、前記過失相殺後の損害額は、二六八万一四九六円となる。

三  弁護士費用

前認定のとおり、原告は保険契約の履行として訴外会社等に右訴外会社の損害額を上回る合計四九六万九一六一円を支払い、商法六六二条の規定に基づく保険代位により訴外会社に対して有する損害賠償請求権(日本道路公団への支払分は共同不法行為の求償債権)を取得したものと認められるところ、その権利行使のため本件訴訟を提起したことは明らかであり、弁護士費用は、保険代位した債権の性質に鑑み、その相当額を被告に負担させるのが適当である。そして、本件事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用は、金三〇万円をもつて相当と認める。

第四結論

以上の次第であるから、原告の本件請求は、被告に対し、二九八万一四九六円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である平成五年七月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

(裁判官 南敏文)

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